よく生きてきたと思う
よく生かしてくれたと思う
ボクのような人間を
よく生かしてくれたと思う
きびしい世の中で
あまえさしてくれない世の中で
よわむしのボクが
とにかく生きてきた
とほうもなくさびしくなり
とほうもなくかなしくなり
自分がいやになり
なにかにあまえたい
ボクという人間は
大きなケッカンをもっている
かくすことのできない
人間としてのケッカン
その大きな弱点をつかまえて
ボクをいじめるな
ボクだって その弱点は
よく知ってるんだ
とほうもなくおろかな行いをする
とほうもなくハレンチなこともする
このボクの神経が
そんな風にする
みんながみんなで
めに見えない針で
いじめ合っている
世の中だ
おかしいことには
それぞれ自分をえらいと思っている
ボクが今まで会ったやつは
ことごとく自分の中にアグラをかいている
そしておだやかな顔をして
人をいじめる
これが人間だ
でも ボクは人間がきらいにはなれない
もっとみんな自分自身をいじめてはどうだ
よくかんがえてみろ
お前たちの生活
なんにも考えていないような生活だ
もっと自分を考えるんだ
もっと弱点を知るんだ
ボクはバケモノだと人が言う
人間としてなっていないと言う
ひどいことを言いやがる
でも 本当らしい
どうしよう
ひるねでもして
タバコをすって
たわいもなく
詩をかいていて
アホじゃキチガイじゃと言われ
一向くにもせず
詩をかいていようか
それでいいではないか
※この詩は、竹内浩三が日大で使用していたドイツ語教科書『ハイゼ傑作抄』の表の見返しに横書きされている。二年生の五月はじめに買って以来三年前期にも使われていたと思われ、おそらく徴兵検査に合格して出征が決定的になってから書き込んだものと思う。無題であるが最初の一行をとって題とした。
『定本竹内浩三全集』p.731 作品の出典と解説 小林察 より