生まれてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。
ただそれだけだ。

        *

日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。

        *

ピリオド、カンマ、クエッションマーク。
でも、妥協はいやだ。

        *

小さな銅像が、蝶々とあそんでいる。彼は、この漁業町の先覚者であった。

        *

四角形、六角形。
そのていたらくをみよ。

        *

バクダンを持って歩いていた。
生活を分数にしていた。

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恥をかいて、その上塗りまでしたら、輝きだした。

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おれは、機関車の不器用なバク進ぶりが好きだ。

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もし、軍人がゴウマンでなかったら、自殺する。

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目から鼻へ、知恵がぬけていた。

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みんながみんな勝つことをのぞんだので、負けることが余りに余った。それをことごとく拾い集めた奴がいて、ツウ・テン・ジャックの計算のように、プラス・マイナスが逆になった。

        *

××は、×の豪華版である。

        *

××しなくても、××はできる。

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哲学は、論理の無用であることの証明に役立つ。

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女はバカな奴で、自分と同じ程度の男しか理解できない。しようとしない。

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今は、詩人の出るマクではない。ただし、マスク・ドラマなら、その限りにあらず。

        *

「私の純情をもてあそばれたのです」女が言うと、もっともらしく聞こえるが、男が言うと、フヌケダマに見える。

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註釈をしながら生きていたら、註釈すること自身が生活になった。小説家。

        *

批評家に。批評するヒマがあるなら創作してくれ。

        *

子供は、註釈なしで憎い者を憎み、したいことをする。だから、好きだ。

        *

おれはずるい男なので、だれからもずるい男と言われぬよう極力気をくばった。

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おれは、人間という宿命みたいなものをかついで鈍走する。すでに、スタアトはきられた。

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どちらかが計算をはじめたら、恋愛はおしまいである。計算ぬきで人を愛することのできない奴は、生きる資格がない。

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いみじくもこの世に生まれたれば、われいみじくも生きん。生あるかぎり、ひたぶるに鈍走せん。にぶはしりせん。

『伊勢文学』第2号(昭和17年7月1日発行)に掲載された詩と散文の中間のような作品。この「鈍走記」は後に、彼の蔵書の萩原朔太郎編『昭和詩抄』の余白に書き込まれた
草稿が見つかっている。その草稿から××(伏字)が何であるかが分かっている。
××は、×の豪華版である。 → 戦争は悪の豪華版である。
××しなくても、××はできる。→ 戦争しなくとも建設はできる

鈍走記(草稿)

1 生まれてきたから、死ぬるまで生きてやるのだ。ただそれだけだ。

2 日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。

3 ペリオド、カンマ、クエッションマアク。でも妥協はいやだ!

4 小さい銅像がちょうちょうとあそんでいる。彼はこの漁業町の先覚者だった。

5 四角形、六角形、そのていたらくをみよ。

6 バクダンをもってあるいていた。生活を分数にしていた。

7 恥をかいて、その上ぬりまでしたら、かがやき出した。

8 私は、機関車の不器用な驀進ぶりを好きだ。

9 もし軍人がゴウマンでなかったら、自殺する。

10 どんなきゅうくつなところでも、アグラはかける。石の上に三年坐ったやつもいる。

11 みんながみんな勝つことをのぞんだので、負けることが余りに余った。それをみんな 

  ひろいあつめたやつがいて、ツウテンジャックの計算のように、プラス・マイナスが  

  逆になった。

12 戦争は悪の豪華版である。

13 戦争しなくとも、建設はできる。

14 飯屋のメニュウに「豚ハム」とある。うさぎの卵を注文してごらんなされ。

15 哲学は、論理の無用であることの証明にやくだつ。

16 女は、バカなやつで、自分と同じ程度の男しか理解できない。しようとしない。

17 今は、詩人の出るマクではない。ただし、マスク・ドラマはそのかぎりにあらず。

18 註釈をしながら生きていたら、註釈すること自身が生活になった。曰く、小説家。

19 批評家に曰く、批評するヒマがあったら、創作してほしい。

20 子供は、註釈なしで、にくい者をにくみ、したいことをする。だから、すきだ。

21 ぼくはずるい男なので、だれからもずるい男だと言われないように、極力気をつかっ 

  た。

22 ぼくは、おしゃれなので、いつもきたないキモノをきていた。ぼくは、おしゃれなの  

  で、床屋がぼくの頭をリーゼントスタイルにしたとき、あわてた。

23 ぼくは、自分とそっくりな奴にあったことがない。もしいたら、決闘をする。

24 親馬鹿チャンリンは、助平な奴である。

25 ベートホベンがつんぼであったと言うことは、音痴がたくさんいることを意味するか   

  しら。

26 ちかごろぼくの涙腺は、カランのやぶけた水道みたいである。ニュース映画を見ても、 

  だだもり。

27 鈍走記人生である。

28 このおれの右手をジャックナイフでなぶりころしにしてやる。おれは、ひいひいとな 

  きわめいて、ネハンに入る。

29 どこへいってもにんげんがいて、おれを嗤う。おれは、嗤われるのはいやだけれども、 

  にんげんをすきだ。

30 人相学と映画学とは一脈相通じる。

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